はじめに
2026年秋、空き家の倒壊が相次いで報じられました。9月末には愛媛県宇和島市で、10月には大阪市生野区で、いずれも空き家が崩れてがれきが道路をふさぎました。「うちの実家は大丈夫だろうか」と不安になった方も多いのではないでしょうか。
この記事では、行政の内側を知る立場から、今回の倒壊がなぜ防げなかったのか、そして空き家を持つ方が今何をすべきかをお伝えします。
大阪と宇和島で何が起きたのか
大阪市生野区のケース
報道によると、経緯は次のとおりです。
| 日付 | 出来事 |
|---|---|
| 10月4日 | 住宅街の空き家が突然倒壊。がれきが前の道路をふさぎ、一部通行止めに |
| 10月8日 | 傾きながら形を保っていた3階部分も崩落し、被害が拡大 |
| 10月10日 | がれきが撤去され、通行止めが解除。建物本体の解体・撤去は未定 |
倒壊の3日前の10月1日には、住民から「空き家が崩れそうだ」と119番通報があり、消防が崩れかけた壁の一部を取り除く緊急対策をとっていました。それでも倒壊は防げませんでした。この建物は20年近く人が住んでいなかったのに、法律上の「空き家」には数えられていませんでした。
近隣の方が「雷みたいな音だった」と話すほどの崩れ方で、けが人が出なかったのは不幸中の幸いでした。
なぜ20年近く「空き家」扱いされなかったのか
倒壊した建物は、壁を共有して複数の住戸がひとつながりになった長屋でした。崩れた一角には20年近く誰も住んでいませんでしたが、同じ棟の別の住戸には住人がいました。
空家法の「空家等」は、建物1棟を単位として、使われていない状態が続いているかどうかで判断します。そのため、長屋の一部屋にでも人が住んでいれば、棟全体が空家等に当たりません。報道によると、大阪市内で空家法に基づき把握されている約30万戸の空き家に、この建物は含まれていませんでした。いわば「隠れ空き家」です。
倒壊後、大阪市は崩れた部分を別の建物として扱い、特定空家等と判断して撤去を検討しています。また、市から連絡を受けるまで、所有者は倒壊を把握していなかったと報じられています。
愛媛県宇和島市のケース
同じ愛媛県内でも、大阪の倒壊の1週間ほど前に同様の事故が起きています。
- 9月28日の明け方、宇和島市吉田町本町(JR伊予吉田駅から約200m)で木造2階建ての空き家が倒壊
- 柱や瓦などのがれきが道路や周辺の住宅に崩れ落ちたが、けが人はなし
- 築およそ100年とみられ、原因は老朽化や長雨と考えられる
- 住宅密集地で通学路にも面しており、市は市道2か所を通行止めに。解除や撤去の時期は未定
通学路に面した場所です。もし子どもたちの登校時間帯に崩れていたらと考えると、ぞっとする事故でした。
なぜ行政はすぐに撤去できないのか
「危ないなら行政が早く壊せばいいのに」。相談の現場でも、近隣の方から何度もいただいた声です。しかし、行政が動けないのには理由があります。
理由1:空き家は個人の財産だから
空き家であっても、所有者の財産であることに変わりはありません。行政が勝手に壊せば、財産権の侵害になります。管理の責任は、あくまで所有者(亡くなっていれば相続人)にあるのが大原則です。
理由2:法律に定められた手順を踏む必要があるから
空家等対策特別措置法(空家法)では、危険な空き家に対して、次の順番で段階的に対応することになっています。
- 助言・指導:所有者に改善をお願いする
- 勧告:改善されなければ勧告。土地の固定資産税の住宅用地特例が外れる
- 命令:それでも改善されなければ命令。違反すると50万円以下の過料を科すことも可能
- 行政代執行:最終手段として行政が解体し、費用は所有者に請求
各段階で所有者の調査や通知、猶予期間が必要なため、数か月から年単位の時間がかかるのが実情です。
理由3:そもそも「空家等」に当たらないケースがある
空家法の対象になるのは、建物が「使われていないことが常態になっている」ものです。たとえば長屋の一部屋だけでも使われていたり、物置として利用されていたりすると、対象外と判断されることがあります。今回の大阪の件は、まさにこの長屋の問題でした。一部に住人がいたために、20年近く行政の空き家対策の網から外れていたのです。
2023年の法改正で変わったこと
こうした課題を受けて、2023年12月施行の改正空家法では、次の仕組みが加わりました。
- 管理不全空家等:倒壊寸前になる前の段階から指導・勧告ができ、勧告されると固定資産税の特例が外れる
- 緊急代執行:倒壊の危険が差し迫っているときは、命令などの手続きを省いて行政が対応できる
それでも、行政の対応は「最後の手段」です。行政が動く前に、所有者自身が手を打つことが何より大切です。
空き家が倒れたら、誰が責任を負うのか
結論から言うと、責任を負うのは所有者です。しかも「知らなかった」「気をつけていた」では免れられません。
民法717条の工作物責任
建物の設置や管理に問題があって他人に損害を与えた場合、民法717条により、まず占有者が責任を負います。誰も住んでいない空き家では、所有者が責任を負うことになり、所有者は過失がなくても責任を免れられません(無過失責任)。
損害額は億単位になることも
自治体のパンフレットでは、倒壊や火災で隣の家が全壊し、死亡事故が起きた場合の損害賠償額を約2億円と試算しています(山武市 空き家パンフレット)。空き家は火災保険や賠償責任保険の対象外になっていることも多く、その場合は全額を自分で負担することになります。
相続登記をしていないと、相続人全員が当事者に
親が亡くなった後、名義を変えずに放置している実家は少なくありません。この場合、空き家は相続人全員の共有状態となり、相続人全員が責任を問われる可能性があります。「兄が実家の近くに住んでいるから任せている」は通用しません。
なお、2024年4月から相続登記は義務化されています。それ以前に相続した不動産も対象で、2027年3月31日までに登記が必要です。
倒壊の前兆チェックリスト
建物は、ある日いきなり崩れるわけではありません。たいていは何年も前から前兆が出ています。実家の空き家に、次のような症状がないか確認してみてください。
宇和島市のケースでも、近隣住民によると数日前から建物にゆがみが見られ、倒壊当日の朝5時ごろには地鳴りのような音がしたそうです。前兆の段階で手を打てていれば、と悔やまれます。
外から見てわかるもの
- 屋根の線が波打っている、たわんでいる
- 瓦がずれている、落ちている
- 外壁が剥がれている、膨らんでいる
- 建物や塀が傾いている
- 基礎に大きなひび割れがある
- 雨どいが外れている
中に入るとわかるもの
- 天井や壁に雨漏りのシミがある
- 床がふかふかする、沈む
- 柱や土台がシロアリに食われている
- 戸や窓の開け閉めが急に固くなった
ひとつでも当てはまれば、早めに専門家に見てもらうことをおすすめします。特に屋根の波打ちと建物の傾きは、構造が傷んでいるサインです。台風や地震をきっかけに一気に崩れるおそれがあります。
四国中央市でも他人事ではありません
宇和島市の事例が示すとおり、空き家の倒壊は都市部だけの話ではありません。古い木造住宅が多い地方のほうが、リスクはむしろ深刻です。
空家等対策室長として現場を回っていた頃、屋根が抜け落ちた家、台風で外壁が道路に飛び出した家を何軒も見てきました。四国中央市も、台風の通り道であり、南海トラフ地震への備えが求められる地域です。
そして相談で特に多かったのが、所有者が県外に住んでいて、実家の状態を何年も見ていないというケースです。近所の方からの通報で初めて危険な状態を知り、慌てて相談に来られる。そんな場面に何度も立ち会いました。
「年に一度、お盆に帰ったときは大丈夫そうだった」。そう思っていても、雨漏りやシロアリは見えないところで進みます。
倒壊を防ぐために、今できること
- 現状を知る:まずは上のチェックリストで状態を確認します。遠方で見に行けない場合は、巡回管理サービスを利用するのも一つの方法です。
- 名義を確認する:登記簿の名義が亡くなった親のままになっていないか確認し、相続登記を済ませます。
- 方針を決める:「残して管理する」「売る」「貸す」「解体する」のどれにするか、家族で話し合います。年末年始の帰省は良いタイミングです。
- 補助金を調べる:老朽空き家の解体には、市の補助制度が使える場合があります。
まとめ
大阪と宇和島の倒壊事故は、空き家を放置すると、ある日突然、所有者が大きな責任を負う立場になることを示しています。行政が動くのを待つのではなく、所有者自身が早めに手を打つことが、家族と近隣の安全を守ることにつながります。
ご相談はブルーバードへ
ブルーバードでは、元・四国中央市空家等対策室長の経験を活かし、空き家の巡回管理から現況調査、売却・活用のご提案、相続手続きまで一貫してサポートしています。
「実家の状態が気になるけれど、遠くて見に行けない」「何から始めればいいかわからない」という方は、お気軽にご相談ください。初回相談は無料です。
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